執事が生み出す感動の「おもてなし」

特別感を創り出すサービス哲学

執事の仕事は、単にお客様の要望に応えるだけではなく、心を動かし、特別な体験を提供することにあります。私は、お客様が感動するほどの最高水準のサービスを「至高のおもてなし」と呼んでいます。
単に「良かった」「満足した」と言ってもらえるレベルでは、真のおもてなしとは言えません。本当のおもてなしとは、お客様の心に響き、感謝されるようなサービスを提供することです。それこそが執事の存在価値であり、どのような業界においても差別化を生む要素となります。

マニュアルでは生み出せない、執事の「おもてなし」

現代のサービス業では、効率化のためにマニュアルや共通ルールが徹底されています。特にチェーン展開するホテルやレストランでは、スタッフが決められた動作を統一し、標準化されたサービスを提供することが求められます。

・笑顔での挨拶
・注文時の復唱確認
・料理を提供する際の決められた動作

これらは確かに優れたサービスですが、お客様の心を本当に動かすものではありません。マニュアル通りの対応だけでは「良いサービス」で終わってしまい、「特別な体験」にはなり得ないのです。

近年、人手不足が叫ばれる中、サービス業界ではタッチパネル注文やセルフサービスを導入し、接客の効率化が進んでいます。こうした仕組みは利便性を向上させる一方で、執事のような「個別対応による感動」を提供する機会を失うリスクもあります。

しかし、コスト競争から抜け出し、付加価値の高いポジションを確立するためには、確実におもてなしが必要です。標準化されたルールやマニュアルは「どこでも・誰にでも・同じ対応をする」ためのものに過ぎません。特別感を生み出すには、「今だけ・ここだけ・あなたのためだけの」サービスを提供することが不可欠なのです。

執事の視点で生まれる「特別なおもてなし」

執事の仕事は、お客様の表面的なリクエストだけでなく、その裏にある真のニーズを察知し、先回りして応えることです。例えば、私が接客サービス研修やアドバイザーとして関わらせて頂いている、ある高級和食店が受けた予約の話をご紹介します。

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一見、理不尽なリクエストの
裏にある想い

ある日、和食店に次のようなリクエストが入りました。

「来店は4人ですが、5人席を使いたい」


これは、特に繁忙期の週末には売上にも影響するため、店側としては受け入れにくい要望です。マニュアル通りに対応するなら、「申し訳ありませんが、お受けできません」と断るのが普通でしょう。
しかし、このスタッフは、私が研修でお伝えした「執事の至高のおもてなし」を深く理解していた学生アルバイトの店員の方でした。この店員の方は、単なるルールに縛られることなく、そのリクエストの真意を丁重に、そして真摯にお伺いしました。詳しく事情を聞いたところ、
「このお店は、亡くなった夫との思い出の場所なのです。正式な法要ではないのですが、子どもたちと一緒に、故人を偲びながら食事をしたい。だから、夫のための席も用意したいのです。」
という理由があったのです。
この話を聞いた店は、ただ席を用意するだけではなく、特別な対応をしました。

・故人のために、遺影を飾れるスペースを確保
・静かに過ごせる広めの個室を用意
・ささやかな気持ちとして、生花を飾り、空間を彩る


驚くべきことに、この花は大学生アルバイトの店員の方が自費で用意したものでした。
この心遣いに感動したお客様は、以降、毎年その店を訪れるようになりました。形式的な接客ではなく、真のニーズに応えることで、長期的な関係が築かれたのです。
そして、その大学生アルバイトの方は卒業と同時に就職が決まり、その店のアルバイトを辞めてしまいました。しかし、毎年、そのお客様がご利用になる命日には、就職先の会社に許可を頂き、大学生時代にアルバイトをしていたその日本料理店で、1日限定のアルバイトをして、そのお客様の接客を担当しています。

執事の「おもてなし」が生む長期的な価値

執事のようなサービスは、単なる接客ではなく、お客様の人生に寄り添い、深い信頼関係を築くものです。
その結果、「この場所でなければならない」と思っていただくことができるのです。
執事の場合は、この場所でなければならない理由を、お客様のご自宅で再現し、この場所に執事がいなくてはならないと思っていただけるように、あらゆることを考え、努力をいたします。

もちろん、お客様の自宅や別荘といった私有スペースで、自由が許される場所で行いますので、執事は様々なことができるのは事実です。
しかし、多くのお客様にご利用いただくような宿泊施設や飲食施設等のサービス業でも工夫次第では、ここでなければならない理由を提供することができます。

安心感を提供
高級ホテルであれば宿泊するたびにお客様の好みを記録し、次回の滞在時にベストな環境を整えます。
お気に入りの枕の種類、部屋の温度、アロマの選択、好みの紅茶やワインまで事前に準備し、お客様が滞在するたびに「ここでしか得られない安心感」を提供。

記念日の宿泊
前にお客様と連絡を取り、特別な演出(花束、メッセージカード、特別メニューなど)を用意し、パーソナライズされたおもてなしを実現。

お客様の好みを把握
前回注文したワインと相性の良い新しい銘柄を特別にセレクトし、次回来店時に「こちらはいかがでしょう?」と提案する。
お客様が以前注文した料理の好みを把握し、同じメニューを用意するだけでなく、新しいシーズナルメニューや特別なコースを個別に

VIP顧客向けに特別な非公開の体験イベント
シェフのプライベートディナー、特別ルームでのティーセレモニー、未公開のアートツアーなどを開催し、招待客に特別な感動を与える。

このように、単なる接客ではなく、お客様の人生に寄り添い、深い信頼関係を築くものです。その結果、「この場所でなければならない」と思っていただくことができるのです。さらに、執事のような「気配り」と「一歩先を読む対応」を徹底することで、お客様にとっての唯一無二の存在となり、長期的な関係を築くことができます。

誰でもできる対応をただ繰り返すだけでは、お客様の心を動かすことはできません。
執事のように、お客様の表面的なリクエストではなく、その奥にある想いを汲み取り、それに応えるサービスこそが、特別な存在になるための鍵なのです。
特別感を生み出す「至高のおもてなし」を提供することで、執事のサービス哲学をあらゆるビジネスシーンに活かすことができるでしょう。




記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

本物執事の新井直之
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