ここでは主に中世〜近世のイギリスに存在した執事の階級についてご説明させて頂きます。使用人=執事というイメージがありますが、様々な役割を持った使用人がいました。執事はその沢山ある役職の一つにすぎません。
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執事
執事とは?
使用人の階級
イギリスにおいて執事の他にどのような階級、役職の使用人がいたのかをご紹介いたします。屋内使用人だけをご紹介します。
まず、使用人の階級には、上級使用人と下級使用人があります。
- 上級使用人:家令、執事、ヴァレット、グルーム・オブ・チェンバーズ
- 下級使用人:フットマン、ボーイ
そして、屋敷の中で仕事をする屋内使用人と庭や所有していた土地などの外で仕事をする屋外使用人の二つが存在しておりました。イギリスでは、1777年に発生したアメリカ独立戦争の影響で、戦争資金を調達するために、屋内男性使用人を雇う世帯に税をかけました。そのため、家令、執事、ヴァレット、フットマンを雇えるというのはステータスでした。
家令:スチュワード
階級:上級使用人
説明:上級使用人であり、全使用人の長です。こちらの家令は王室、上流貴族クラスの屋敷にしかおらず、それ以外の貴族クラスの場合は執事が兼任で業務を行なっていました。現在は家令といえばハウス・スチュワード(House Steward)のことを指すことが多いです。
業務内容:
- 屋敷の日常業務、屋内使用人(執事、メイド、コックなど)の管理
- 膨大な領地の維持管理から屋外使用人(農場労働者、庭師、飼育係)の管理
- 領地裁判の管理(中世の貴族は領主として司法機関の役割もあった関係)
時代が進むにつれて、スチュワードの仕事である屋敷内と屋敷外に業務が分担され、以下のように分類されました。
- ランド・スチュワード(Land Steward):農業、林業、自然保護などの大規模な領地の運営と管理
- ハウス・スチュワード(House Steward):屋敷内全体の内部運営と管理
執事(Butler)
階級:上級使用人
説明:執事は、家令が居ない場合、邸宅内で最も高位の男性使用人であり、ハウス・スチュワードの代わりに全体の運営や他の使用人の管理を担当します。また、男性使用人のフットマンを含む他の使用人の監督も行います。ワインを管理と監督する関係で地下に自身の一人部屋があり、下級使用人より生活環境と待遇は天と地ほど違いました。ボーイからフットマンまでは制服が支給されましたが、執事からは私服になります。そのため、私服使用人とも呼ばれておりました。執事の制服という概念はなく、仕立て屋などでは執事用の服が売られていても、執事の制服はありませんでした。
業務:
- 屋敷運営
- 使用人管理と監督(ハウスキーパーが居ない場合は女性使用人の管理も)
- 玄関とワインセラーの管理
- 銀食器の管理
グルーム・オブ・チェンバーズ
階級:上級使用人
説明:主からの指示を他の使用人に伝言したり、応接室などにおいてあるペンと紙が用意されているか、花はかれていないか、暖炉の火は消えていないか、ソファに汚れはないかなどのチェックする役割がありました。
また、パーティの際にフットマンや副執事などが間違った所作をしていないかの監督をしておりました。儀礼的な役目であり、この業務は家令、執事が兼任できるので、王室や貴族にしか居ませんでした。
業務:
- 応接室などの清掃確認
- パーティの応接対応と使用人の監督
- 主とその一家のスケジュール管理
従者(ヴァレット)
階級:上級使用人
説明:中世の時代からある役職であり、男性主の個人付きの使用人であり、若い主か年配の主に付くことが多かった。契約も主と直接契約のため、執事の監督管理外であり、執事と同等の力関係にありました。そういった経緯もあり、他の使用人からは同じ使用人でも主と近い関係にあるため、スパイ扱いされることも多くありました。女性主には侍女(レディースメイド)が付き、執事が兼任する場合もありました。
ヴァレットは、フランス語で(騎士の)従者を指す意味がありました。
業務:
- 服装の管理
- 身の回りの世話
- 旅行の手配(第二言語が話せることが求められた)
- 私物の管理
従僕(フットマン)
階級:下級使用人
説明:フットマンの起源は17世紀にさかのぼり、当初は馬車の後部に立っていた使用人でした。ドアを開けたり、給仕の補助、銀食器の管理補佐などを行なっていました。彼らの最大の特徴は、豪華な衣装や制服が支給され、外部に見せるための使用人でもあり、その関係から高身長、顔が整っている、ふくらはぎの形の良さなどが求められました。高身長であれば高い給料が支払われることもありました。彼らは旅の途中で主人の荷物を管理し、護衛の役割も果たしていました。フットマンが複数いる場合は、ファーストフットマン、セカンドフットマン、サードフットマンと階級がありました。彼らは将来、執事または従者になるために訓練を受けていました。
業務:
- 食事の準備や配膳、テーブルセッティング、給仕などを担当
- 主人や客人の荷物を運び、部屋まで案内する役割
- 屋内の清掃や家具、銀食器の手入れ
- メッセージや手紙の配送
- お出かけする婦人の同行および警護
ボーイ
階級:下級使用人
説明:見習い職であり、使用人になった際に一番最初になる役職です。掃除や力仕事雑用を行います。部屋は与えられず、いつでも対応できるように廊下などで寝ていました。また、ブートボーイ、ページボーイ、ホールボーイなど役割によって名前が違います。この見習いの時期に、上級使用人などに仕えながら、仕事を覚えて出世していきました。
業務:
- ブートボーイ:靴磨きなどを行う、その他雑用
- ページボーイ:フットマンのように豪華な衣装を着てフットマンの見習い職
- ホールボーイ:一番スタンダードな仕事、他の使用人や主人の指示に従うために待機していました。
- ランプボーイ:屋敷にあるランプの管理、その他雑用
- スチュワードボーイ:家令の補佐を行う
執事の階級と種類
執事(バトラー)だけでも様々な階級と種類が存在します。
副執事(Sub Butler)/下級執事(Under Butler)
執事が複数いる場合は、執事の下に副執事や下級執事の階級が設けられていました。または、ワインを専門に取り扱う執事、銀食器専門に取り扱う執事など専門職的な執事も存在しました。
執事兼近侍(ButlerValet)
ヴァレットの業務を兼任する執事
階級によるキャリアパス
ある日、突然執事になれるわけではなく、経験を積んで執事という役職につくことができました。まず、使用人の登竜門のボーイとして雑務をこなしながら、家令、執事、フットマンなどに仕えて仕事、所作を覚えていき、経験を積んだのち、サードフットマンまたはフットマンに出世して、そこから管理監督が業務のメインである執事になるか、個人付きのヴァレットになるかに分かれていました。
実際に存在した複数の執事の経歴をみると、フットマンからヴァレットを経て執事になる者もいれば、フットマンから直接執事になる者もおり、執事になる年齢は20代後半〜30代が多いです。執事は一つの一族にお仕えするイメージが強いですが、実際は転職を繰り返して出世するのがほとんどでした。ある屋敷から次の屋敷に移る際に、前の主に自身(執事)がどんな働きをしたか、または悪い癖があるかなどを記載した紹介状を書いてもらい、それを次の屋敷の主に見せる風習がありました。
使用人を仲介する
執事の階級と報酬の違い
執事は上級使用人であり、監督管理などの業務を行う関係もあり、会社でいうと幹部クラスですので報酬も高く、年収は£30,000〜£80,000でした。当社の執事は、勤務形態、勤務地、スキルで変わって来ますが、年俸制給与として300〜1,000万円になります。
参考文献
- 「日本の執事イメージ史」
- 使用人が観た英国二〇世紀
- 図説 英国執事 貴族を支える執事の素顔
- Inside the Victorian Home: A Portrait of Domestic Life in Victorian England