執事の解説する、企業創業家

企業創業家とは何か

― 執事が理解すべき、富裕層顧客の背景と責任 ―

日本バトラー&コンシェルジュ株式会社では、富裕層のお客様にお仕えするにあたり、資産規模や生活水準といった表面的な情報だけでなく、その方が置かれている立場や、背負っている責任を正しく理解することを重視しています。
なかでも、執事・コンシェルジュとして必ず理解しておくべき存在が「企業創業家」です。

一般的に「富裕層」というと、派手な生活や自由な消費行動をイメージされるかもしれません。
しかし、企業創業家は単なる資産家や経営者ではなく、日本経済そのものを長期的に支えてきた存在であり、その人生と企業経営は切り離して考えることができません。
本記事では、執事の朝礼ライブおよび配布資料の内容をもとに、「企業創業家とは何か」「同族会社との違い」「創業家が背負う責任と心理」、そして執事・コンシェルジュが果たすべき役割について、富裕層サービスの現場視点から解説します。

企業創業家とは
「企業と人生を一体で背負う一族」

企業創業家とは、企業を創業した一族が、現在もなお企業の所有・支配・理念形成に関与し続けている存在を指します。
研修資料における定義で重要なのは、「過去に創業した」ことではなく、「現在も関与し続けている」という点です。

企業の未来に対して
人生を通じて責任を負う存在

企業創業家は、株主としての立場だけでなく、経営判断、事業承継、企業理念の継承など、企業の方向性に長期的な影響を与え続けます。
現代の資本主義社会では「所有と経営の分離」が語られることが多いですが、創業家においては、これらを一体とすることで「企業の永続性」を担保しているのです。
そのため、企業創業家にとって企業経営は、仕事の一部ではなく、人生そのものと深く結びついたものになります。

「企業創業家」と「同族会社」は
異なる概念

混同されがちですが、この二つは明確に区別して理解する必要があります。

企業創業家

「人・一族」を指す概念。
執事がお仕えする対象であり、感情や歴史を持つ生身の存在。

同族会社

「企業の所有・経営構造」を指す概念。
創業家が主要株主として関与している組織形態。

この違いを理解することは、富裕層のお客様を正しく理解するうえで非常に重要です。
なぜなら、お客様は「同族会社」というシステムの頂点にいながらも、一人の人間としての「創業家」というアイデンティティの間で葛藤されていることが多いからです。

日本における同族会社の多さと、
その意味

日本では、中小企業の大半が同族会社であると言われています。
また、上場企業であっても、一定数は創業家が株式を保有し、経営に影響を与え続けています。
さらに、100年以上続く老舗企業(shinise)の多くは、創業家が世代を超えて関与し続けていることが特徴です。

■ 解説:日本経済の特殊性

世界的に見ても日本は「長寿企業大国」です。これは、企業創業家という存在が、日本経済の中で決して特別な存在ではなく、むしろ「当たり前の経営形態」として社会の安定基盤となってきたことを示しています。
執事・コンシェルジュとして富裕層のお客様に向き合う際、この「日本的な継続性の価値」を理解しているかどうかは、サービスの質に直結します。

非同族会社との決定的な違い

一般的なサラリーマン社長が経営する企業と、創業家企業では、経営のOS(基本ソフト)が異なります。

非同族会社
(株主主導・サラリーマン経営)
同族会社
(創業家主導)
  • 株主と経営者が分離
  • 経営者は任期制で評価される
  • 成果は短期的な業績重視
  • 所有と経営が一体
  • 責任は一族全体に帰属
  • 評価は世代単位・長期視点

非同族会社では、経営者は株主総会や任期ごとの評価によって判断されます。そのため、数年単位の成果が求められます。
一方、同族会社では、所有と経営が一体となっており、経営判断の責任は一族全体に帰属します。
評価の単位は年度ではなく、世代単位(30年〜50年)で行われることが多く、「次の世代に企業を残せるか」という視点が常に存在します。
この違いは、創業家のお客様の判断の重さ、慎重さ、そして精神的な負荷に大きく影響します。

創業家にとって経営とは
「人生そのもの」

企業創業家にとって、経営と私生活を完全に切り分けることは困難です。
休日であっても経営判断を求められることがあり、家庭内の会話が自然と会社の話題になることも少なくありません。

また、配偶者や子どもも「創業家の一員」として社会から見られ、進学や交友関係においても企業の存在が影響を与えることがあります。
経営判断は、個人の判断ではなく「一族の判断」として評価されるため、失敗の重さも一般的な経営者とは異なります。彼らにとって、会社とは「職場」ではなく「我が家の一部」なのです。

創業家が背負う四つの大きな責任

多くの人が憧れる富裕層の生活。しかし、その華やかさの裏には、逃れることのできない四つの重責が存在します。

1. 従業員とその家族への責任

一つの経営判断が、多くの雇用と生活に影響を与えます。特に不況時において、同族会社が雇用維持を優先する傾向が強いのは、「従業員は家族」という意識が強いためです。軽い判断は許されません。

2. 取引先・地域社会への責任

企業は社会との信頼関係の上に成り立っており、創業家の判断は企業外にも波及します。地域経済を支える名家である場合、その撤退や失敗は地域の衰退に直結するため、公的な責任感も背負っています。

3. 創業理念と家名を守る責任

創業者が築いた価値観や信用を次世代へ引き継ぐことは、創業家にとって重要な使命です。「自分の代で暖簾(のれん)を汚すわけにはいかない」というプレッシャーは、想像を絶するものがあります。

4. 失敗が一族の歴史として刻まれる重圧

これが最も精神的負荷の高い点です。サラリーマン経営者の失敗は「経歴の傷」で済みますが、創業家の失敗は「一族の歴史」として永続的に記録されます。個人の尊厳だけでなく、先祖と子孫の名誉がかかっているのです。

創業家が抱える制約と孤独

企業創業家は「恵まれた立場」「特権的存在」と見られることもあります。
しかし実際には、以下のような見えない檻の中にいます。

  • 自由な行動が制限される(常に周囲の目を気にする必要がある)
  • 感情を表に出しにくい(トップとしての強さを演じ続ける)
  • 社内でも弱音を吐けない(唯一無二の孤独な立場)
  • 公私の境界が曖昧で、休息が取れない

常に判断と責任に晒され続けるこの精神的負荷は、外からは見えにくいものです。
執事サービスの現場では、こうしたお客様が唯一「鎧を脱げる場所」を提供することが求められます。

執事・コンシェルジュに
求められる役割

こうした背景を理解したうえで、執事・コンシェルジュに求められる役割は、単なる生活支援(家事や手配)ではありません。
それは、「経営に集中するための基盤(インフラ)づくり」です。

  • 判断の質を落とさないための環境づくり(健康・睡眠・情報の管理)
  • 集中できる時間と空間の確保(ノイズの排除)
  • 家庭内の動線や情報の整理(家族間の橋渡し)
  • 安心して気を緩められる場の提供(守秘義務と心理的安全性)

これらはすべて、創業家のお客様が背負う重責を理解してこそ実現できる支援です。
企業創業家に寄り添う仕事は、決して軽いものではありません。しかし同時に、日本経済を支えるリーダーの「人生と企業」の両方に深く関わる、非常にやりがいのある仕事でもあります。

まとめ

企業創業家とは、企業と人生を切り離すことができず、長期的な責任を背負い続ける存在です。
同族会社という形態は、日本経済において決して例外ではなく、多くの企業がこの構造のもとで存続してきました。

日本バトラー&コンシェルジュ株式会社は、こうした企業創業家の背景を正しく理解し、その重責に寄り添うサービスを提供しています。
富裕層のお客様一人ひとりの立場と人生を尊重し、静かで本質的な支援を続けてまいります。

記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

本物執事の新井直之
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