フットマンについて解説
フットマンとは?
フットマン(英:Footman)とは、主に貴族や富裕層の邸宅に仕える男性下級使用人の一種で、特に食卓での給仕や来客対応を担当する役割を持っています。
フットマンは、イギリスをはじめとするヨーロッパの伝統的な使用人の重要なポジションの一つとされていました。ヴィクトリア朝時代において、フットマンは執事(バトラー)や家令(ハウス・スチュワード)の指揮・監督下で業務を遂行し、経験を積むことで執事(バトラー)へと昇進することが一般的でした。そのため、フットマンは単なる使用人ではなく、執事へのキャリアアップのための登竜門的な役割も果たしていました。
フットマンの役割
先ほどのフットマンの歴史で説明した通り、14世紀において「フットマン」は、兵士と言う意味があり詳しく言えば、騎馬の騎士とは違い、徒歩で戦う兵士を指していた、戦場以外の場では、使者や随行員として活躍しており、中にはメッセージを伝えたり、貴族の馬車の横や後ろを走って安全な通行を確保したり、領主のために目的地を準備したりする任務を負っていたランニングフットマンなども存在していた。
ヴィクトリア朝時代になると、フットマンの役割は裕福な屋敷に仕える使用人の意味になりました。
下記は、ヴィクトリア朝時代の主なフットマンの業務の一例になります。
食事サービス
フットマンは、朝食、昼食、夕食の間、食卓のセッティング、食事の配膳、食事の世話などを担当。
大きなパーティなどでは執事がフットマンにミスがないか、監視と監督をしていた。
掃除、メンテナンス
家庭用の銀製品、ガラス製品、家具などの掃除や磨きも担当。
また、ブーツや靴をきれいにし、ランプの芯を整えなども行っていました。
玄関係と来客応対
フットマンは来客に応対し、客を迎え、応接間や応接間のベルを鳴らした。
彼らは来客を主に告げ、客人との交流においては適切な礼儀作法を出迎えをした。
同行と補助対応
必要に応じて、フットマンは主が乗る馬車の後ろに立ったまま同行するか、別の馬車で前後に警護を兼ねた同行を行っていた。
馬車が清潔で使用できる状態であることを確認するなどおこなった。
フットマンへの昇進
少年使用人(ホールボーイやブートボーイ)として奉公を始めた者が、経験と勤勉さを積むことでフットマンに昇進する道が開かれていました。フットマンとしての経験を重ねることで、以下のような上位の職位に進むことが可能でした。
フットマン候補の少年使用人(ボーイ)は時にフットボーイという役職もあり、これはフットマン見習いとしての性格が強く、将来的に正式なフットマンとなるための教育を受けていました。
このようにしてフットマンの傍で学び、経験を積んだ少年使用人は、フットマン候補として能力を見極められる場となっていました。
主人や執事からの評価が高ければ、17〜18歳前後で正式にフットマンに昇格し、そこから先はヴァレットや執事へと出世することもありました。
フットマンの種類と階級
フットマンには屋敷によっては第一フットマン、第二フットマン、第三フットマンと階級があった。また専門職
第一フットマン/First Footman
第一フットマンは、この階級の最高位の使用人に与えられた呼称です。
第一フットマンは執事代理を務め、執事が不在の場合は執事として行動するが、大きなお屋敷では第一フットマンの上に下級執事/副執事(アンダーバトラー)を置くこともあった。
主な業務:
毎食の食卓並べ・家族の部屋やダイニングルームで朝食を出す・朝の戸締まり。
彼はまた、毎日銀食器が綺麗にされ、朝食前にダイニングルームが完璧に整頓されていることを確認していた。
執事が不在の場合は、第一フットマンが執事の仕事を引き受け、他の使用人を監督し、家事が円滑に行われるようにする。
第二フットマン/Second Footman
第二フットマンは、第一フットマンと執事の職務を補佐する役割でした。
主な業務:
彼の仕事には、食事の配膳、朝食室の世話、銀食器のこすり洗い、食器の拭き掃除など
第一フットマンと交代で玄関に出向き、家族に朝食と昼食を提供していました。
また、必要に応じて、他の使用人の手伝いなどをしていた。
第3フットマン/Third Footman
第二フットマンは、フットマンの初級職であり、一般的に最も若く、新米がなる役職。
主な業務:
炭や薪の運搬、玄関ホールや書斎を整備、コートルームの整理
仲間のフットマンと交代で主や家族に朝食や昼食を配膳
そして経験豊富なフットマンの指導のもと、第三フットマンは家事サービスのいろはを学びました。
フットマンへから昇進
フットマンとして数年の経験を積んだ者のうち、特に優秀な人材は、中規模以上の邸宅であれば副執事(アンダー・バトラー)として雇用されることがありました。
一方で、邸宅の規模が小さい場合には、フットマンから直接執事(バトラー)へと昇進する例も存在しました。
また、主人個人に仕える**ヴァレット(従者)**として抜擢される者もおり、これは給仕職から私的な身の回りの世話へと職務が変化するパスでした。
すべてのフットマンが同じキャリアを歩むわけではなく、フットマン → ヴァレット → 執事というように段階を経て昇進する使用人も見られました。
フットマンの現状
かつての象徴、今は稀少な職業に
フットマンとは、19世紀イギリスの大邸宅において、食事の給仕や来客対応、銀器の手入れなどを担っていた男性使用人です。美しい制服と礼儀正しさを備えたその姿は、邸宅の格式と富を象徴する存在でした。しかし、時代の変化とともにその役割は大きく姿を変えていきます。
フットマンの衰退
第一次・第二次世界大戦を契機に、多くのフットマン候補であった若い男性が徴兵され、戦後はより自由で待遇のよい仕事を選ぶようになりました。さらに、電気機器の普及によって、かつてフットマンが担っていた炭の管理や食器の手入れ、灯油ランプの磨きといった業務が不要となり、邸宅で雇用される使用人の数自体が減少していきました。
20世紀後半には、住み込み使用人という雇用形態そのものが減少し、正規雇用や労働契約に基づく現代的な人事制度が一般化しました。人件費や福利厚生の負担が大きくなったことで、複数名の男性使用人を維持する家庭はごく一部の超富裕層に限られるようになり、フットマンという役職は徐々に消えていきました。
それでも残るフットマン
現在でも、フットマンは完全に姿を消したわけではありません。英国王室では伝統儀礼の一環として、正式な晩餐会や行事においてフットマンが従事しており、その制服姿を見ることができます。また、限られた超富裕層の邸宅や、高級ホテルの一部でも、伝統を意識したサービスの中でフットマンに近い職務が維持されています。
現代の社会において「フットマン」という名称を耳にすることは稀ですが、彼らが体現していたサービス精神や身のこなしは、現代の執事、パーソナルアシスタント、ホテルのコンシェルジュなどに受け継がれています。姿を変えながらも、その哲学は今も生き続けているのです。