執事が実践する「鯛」を釣るコミュニケーション術とは?

執事が実践する「鯛」を釣るコミュニケーション術とは?


お客様の思いに共感し、心をつかむ方法
お客様に心から喜ばれるおもてなしを提供するためには、単なる礼儀やマナーだけでなく、心の深い部分に触れるコミュニケーションが必要です。私たち執事は日々の接客を通じて、相手が無意識に持つ心理的欲求、つまり「鯛」を釣り上げるコミュニケーションを実践しています。

ここでいう「鯛」とは、人間誰もが持っている3つの心理的欲求、「褒められたい」「認められたい」「役に立ちたい」を意味します。しかし、「褒める」という行為は立場や状況によっては逆効果になる場合もあるため、私たちはそれを「お客様の思いや考えに共感する」という技術として位置付けています。

本稿では、執事が富裕層のお客様に日々提供している接客を例に、「鯛」を釣るための具体的な方法と注意点を心理学的な裏付けとともに解説し、ビジネスや日常生活にも活かせるポイントをお伝えします。


「鯛」を釣るための3つの心理的欲求とは?

人間の心理的欲求については、心理学者マズローの「欲求五段階説」(Maslow,1943)がよく知られています。
私たち執事は、それを日々の接客に活かしやすいよう、次の3つのシンプルな欲求に集約しています。


1. 褒められたい(自己承認欲求)

2. 認められたい(自己肯定欲求)

3. 役に立ちたい(自己有用感欲求)


これらの欲求を満たすことで、お客様は深い満足感や安心感を得て、心を開いてくださるのです(新井直之, 2016)。


お客様の思いや考えに共感する技術

お客様が本当に求めているのは、単なる称賛の言葉ではなく、「自分の存在や考えを尊重され、共感してもらうこと」です。心理学者カール・ロジャーズは「共感的理解(Empathic Understanding)」の重要性を強調し、人が本当に満たされるのは「相手が自分を理解しようとしている」と感じる時だと指摘しています(Rogers,1951)。

執事はこの「共感」の技術を磨き、富裕層のお客様との接客に役立てています。例えば、お客様が愛用の時計を見せてくださった際、単に「素晴らしい時計ですね」と褒めるのではなく、「この時計をお選びになったお客様のセンスに感銘を受けました」と、お客様自身の選択や価値観に焦点を当てた言葉を選びます。これにより、お客様は「自分の好みや判断を理解してもらえた」と感じ、深い共感と安心感を得るのです。


「褒める」際に注意すべきポイント

昨今、コロナ禍以降のコミュニケーション不足を補おうと、「褒める」という行為が注目されています。しかし、「褒める」は基本的に立場が上の人が下の人に使う傾向がある言葉であり、富裕層のお客様や上司、年長者に安易に使うと、時には失礼にあたり、相手のプライドを傷つけるリスクもあります。
私たち執事が富裕層のお客様と接する際は、以下の注意を必ず心がけています。

• 評価や評論は絶対にしないこと
世界一であるとか、「ここのこういう点がセンスが良いですね」などといった、具体的な評価や評論は、あなたがその分野の専門家でない限りは絶対にしてはいけません。評価や評論は、その分野の上の方が、下の方に対して行うものなのです。

• 具体性を持った共感をすること
単なる表面的な褒め言葉ではなく、具体的にどの部分が優れているのかを明確に伝え、お客様が自尊心を傷つけずに満足感を得られるよう工夫します。

• 自然な言葉とタイミングを選ぶこと
わざとらしさがない自然な流れでお客様の意見や行動を肯定するようにします。

これらのポイントを踏まえた上で、適切な言葉選びと共感的態度を組み合わせれば、相手に安心感を与え、心の距離が縮まります。


感謝を伝えることで「役に立ちたい」欲求を満たす

執事の現場では、お客様にさりげなく感謝を伝えることで、相手の「役に立ちたい」という欲求を満たしています。お客様がわずかな配慮を見せてくださった時でも、「お気遣いありがとうございます」「大変助かります」と伝えることで、お客様に「自分もサービスの一部に参加している」と感じていただけます。

この小さな感謝の積み重ねが、富裕層のお客様にとっても大きな満足感となり、より深い信頼関係を築く礎となるのです。


執事サービスの経験を講演・研修として提供

私たちの会社では、執事が富裕層のお客様に提供してきた質の高い接客術やコミュニケーション術を、多くの企業やビジネスパーソンに向けて講演や研修として提供しています。

これまで執事として培った経験と実際の接客事例をもとに、一般的なマニュアルでは学べない、お客様の心を掴むための具体的かつ実践的なノウハウを伝授します。接客業や営業職の方々にはもちろん、リーダーやマネージャー層の方にも、社内コミュニケーションや顧客との関係構築に役立てていただける内容です。

ぜひ私たちの講演・研修を通じて、執事が実践する「鯛を釣るコミュニケーション術」を日々のビジネスに取り入れていただき、接客や人間関係の質を高めていただければ幸いです。


【参考文献】

• 新井直之(2016)『執事が教える至高のおもてなし』きずな出版
• Maslow, A. H. (1943). “A Theory of Human Motivation.” Psychological Review.
• Rogers, C. R. (1951). Client-Centered Therapy.
• Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior.
• James, William. (1890). Principles of Psychology.

記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

本物執事の新井直之
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