執事-VIP・富裕層が一番嫌うのは「ミス」ではなく「不安」である

VIP・富裕層が一番嫌うのは
「ミス」ではなく「不安」である

― 信頼を損なわないための「見通し」の伝え方 ―

「あとどれくらい時間がかかりますか?」
「いつ終わりますか?」
「今どういう状況ですか?」

VIPや富裕層のお客様から、こう聞かれた経験はないでしょうか。
このとき、現場でつい出てしまう返答があります。

「もう少しかかります」
「たぶん大丈夫です」
「確認してみます」

日常会話としては不自然ではありません。ところが、VIP・富裕層のお客様に対しては“最も避けたい返し”になりやすいのです。
なぜなら、VIP・富裕層が一番嫌う感情は「不安」だからです。
本稿では、執事の現場で再現できる形に落とし込みながら、「不安を生まない説明の型(4ステップ)」をまとめます。

VIP・富裕層が嫌うのは
「待つこと」ではない

まず誤解を解きます。
VIP・富裕層は、必ずしも「待たされること」自体を嫌っているわけではありません。
極端な話、待ち時間が長くても、「何が起きていて」「あとどれくらいで」「どうなる見込みで」「何を約束できるか」が見えていれば、落ち着かれることが多いのです。

逆に、待ち時間が短くても、「いつどうなるかわからない」状態になると、強いストレスが生まれます。
つまり不安の正体は、時間そのものではなく――

不安の正体は「時間」ではなく
「不確実性(Uncertainty)」である。

Psychology of VIP Service

なぜ富裕層は「不確実性」に
強いストレスを感じるのか

VIP・富裕層のお客様は、仕事や人生の中で「状況をコントロールする経験」を長く積んできた方が多い傾向にあります。
自ら意思決定し、結果を取りに行き、問題を解決してきた。その積み重ねがあるからこそ、「先が読めない」「情報が欠けている」「コントロール不能」な状態に敏感です。

そしてもう一点。
富裕層にとって時間は単なる“経過”ではなく、“価値を生むリソース”です。
不確実な時間は「管理できない時間の浪費」として感じられやすく、結果として強い不満につながりやすいのです。
だからこそ、執事・コンシェルジュ側がすべきことは明確です。
正解を言うことではなく、「見通しを作ること(不確実性を減らすこと)」。ここに専門性があります。

「曖昧な返答」が危険な理由
小さな言葉が不安を増幅する

例えば車移動中、渋滞の中でこう聞かれます。
「日本橋まで、あとどれくらい?」
このとき、「もう少しです」「たぶん10分くらい」と返すと、お客様の頭の中には次の疑問が残ります。

× お客様の脳内でのツッコミ
  • ・「もう少し」って、具体的に何分?
  • ・「たぶん」ってことは、確証はないの?
  • ・根拠は? ナビを見て言ってるの?
  • ・もし遅れたら、次の予定はどうなる?

曖昧さは、相手の思考をネガティブな方向(不安側)へ走らせます。
不安が生まれた瞬間、こちらがどれだけ丁寧な言葉を使っても、信頼は削られていきます。
だから、執事の現場で必要なのは「断言する勇気」ではなく、「根拠と構造で安心を作る技術」なのです。

安心感はセンスではなく
「型」で作れる:4ステップ

今回の核となるのが、安心感を作る言葉の型です。
VIP・富裕層のお客様は、感情的な励ましよりも、整理された状況説明で落ち着かれる場面が多いです。
順番は固定で考えてください。

STEP 01:受け止め
相手の状況・感情をまず受け止める

いきなり言い訳や説明を始めない。「ご不安をおかけしております」と感情に寄り添う。

STEP 02:現状
いま何が起きているかを正確に伝える

事実のみを伝える。「現在、〇〇通りで事故渋滞が発生しております」

STEP 03:見通し
今後の流れ・時間の目安を明確に示す(根拠つき)

「カーナビの表示ですと、あと10分ほどで到着見込みです」と根拠を添える。

STEP 04:約束
具体的な行動を約束する(条件分岐も含める)

「もしさらに遅れる場合は、すぐに地下鉄への切り替えをご提案します」とリスクヘッジを示す。

この4ステップを踏むだけで、「不確実性」が減り、論理的な安心感が生まれます。

【実践例】
4ステップをそのまま使う

ケース1:車移動・渋滞時

お客様:「あとどれくらいで着きますか?」

1. 受け止め:
「お急ぎのところ、お待たせしてしまい申し訳ございません。」

2. 現状:
「現在、外堀通りが工事のため渋滞しております。」

3. 見通し(根拠):
「カーナビの表示ですと、あと10分ほどで到着見込みです。渋滞区間をあと200mで抜けますので、到着時刻は大きくは崩れない見込みです。」

4. 約束(条件分岐):
「もし表示がさらに5分以上伸びるようでしたら、最短で地下鉄への切り替えも可能です。その場合はすぐにご提案いたします。」

ケース2:天気・現地情報の確認

お客様:「明日の箱根の天気はどう?」

× 悪手:
「すみません、わかりません」「たぶん大丈夫だと思います」

○ 良手(4ステップ):
1. 受け止め:
「承知いたしました。ご予定に関わりますので確認いたします。」

2. 現状:
「いま手元では東京の予報は確認できておりますが、箱根の山間部の詳細は確認が必要です。」

3. 見通し:
「このあと3分ほどで調べて、最新の予報をお伝えいたします。」

4. 約束:
「雨の可能性がある場合は、移動導線の変更案とお召し物・雨具の手配案まで含めてご提案いたします。」

このように「確認します」だけで終わらせず、“いつ返すか”“どうなったらどうするか”を先に約束することが、不安を消す唯一の方法です。

記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

本物執事の新井直之
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