
その「誠意」が命取りになる。
VIP・富裕層のお客様をメール詐欺から守る、
執事の「疑う技術」
「至急、この口座に送金してくれ。詳細は後で話す」
「極秘案件だ。他のスタッフには言うな」
もし、あなたが尊敬する上司や、お仕えしているお客様からこのようなメールが届いたら、どうしますか?
「急がなければ」「お役に立たなければ」
そう直感的に思ったなら、あなたはプロとして非常に優秀です。
しかし残念ながら、現代の詐欺師たちは、その「あなたの優秀さと誠意」を最大の武器として利用します。
本記事では、富裕層を狙う最新の「なりすまし詐欺(BEC)」の手口と、執事だからこそできる防御策について解説します。
なぜ今、富裕層が
詐欺の標的になるのか
かつての詐欺は「数打ちゃ当たる」方式が主流でしたが、現在は特定のターゲットを狙い撃ちにする「スピアフィッシング」型へと進化しています。
中でも、VIP・富裕層は、詐欺グループにとって「最も効率の良いターゲット」とされています。
理由は以下の3点です。
- ・送金額の桁が大きく、一回の成功で得られる利益が莫大である。
- ・本人が多忙であり、即断即決する習慣があるため、確認プロセスが省かれやすい。
- ・周囲に「指示に従うスタッフ(秘書・執事)」がおり、命令系統を悪用しやすい。
特に危険なのは、3つ目の「スタッフの存在」です。
お客様との信頼関係が強ければ強いほど、「あの方が言うのだから間違いない」「疑うなんて失礼だ」という心理が働き、最後の防波堤が決壊してしまうのです。
詐欺師が狙うのは
「ITの弱点」ではなく「心理の弱点」
最新の詐欺手口である「BEC(ビジネスメール詐欺)」の恐ろしさは、ウイルスやハッキングといった技術的な攻撃ではない点にあります。
彼らが攻撃するのは、人間の心理です。
具体的には、執事や秘書が持つ**「美徳」**を逆手に取ります。
「早く対応しないと無能だと思われる」という恐怖心を煽るのです。
役に立ちたいという善意が、確認作業を「裏切り」のように感じさせてしまいます。
これにより、周囲への相談(ダブルチェック)を封じ、孤立した状態で判断させようとします。
最重要メッセージ:
「疑うこと」は裏切りではない
ここで、私たち執事が持たなければならない「新しい哲学」があります。
それは、「疑うことは、最大の忠誠である」という考え方です。
従来のマナー教育では、「お客様を信じること」が美徳とされてきました。しかし、サイバー犯罪が横行する現代において、盲目的な信頼は「怠慢」になりかねません。
疑う = 不信感
確認する = 失礼
言われた通りにする = 優秀
疑う = 検証(Verification)
確認する = 守護(Guardian)
事故を未然に防ぐ = 優秀
執事は、単なる「命令実行者(Doer)」ではありません。
クライアントの資産と人生を守る「守護者(Guardian)」です。
「もしこれが詐欺だったら、お客様の大切な資産が失われる」。そのリスクを想像し、勇気を持って立ち止まり、確認すること。
それこそが、本当の意味での「お客様への誠意」なのです。
執事が現場で守るべき
「3つの鉄則」と具体対応
では、具体的にどう身を守ればよいのでしょうか。
日本バトラー&コンシェルジュでは、以下の3つの鉄則をルール化しています。
鉄則①:名前だけで判断しない
メールの「表示名」はいくらでも偽装できます。
「社長」という名前で届いても、アドレスが `ceo-company@gmail.com` (フリーメール)だったり、`.co.jp` が `.co` になっていたりと、微細な違いがあるケースが大半です。
送信元のメールアドレスを一文字ずつ確認する癖をつけましょう。
鉄則②:個人情報・金銭は単独で動かさない
「口座情報を教えて」「ここに振り込んで」
こうした依頼に対して、一人の判断で実行してはいけません。
「金銭と個人情報に関しては、必ず上長の承認、または複数名での確認を経る」というルールを、組織として、あるいは家庭内のルールとして事前に決めておくことが重要です。
鉄則③:「違和感」を放置せず、アナログで確認する
「いつもと文体が違う」「タイミングがおかしい」。
現場で感じる「なんとなくの違和感」は、往々にして正解です。
この時、メールで「本物ですか?」と返信してはいけません。犯人が返信してくるだけだからです。
必ず「電話」や「対面」といった、別ルート(アナログ)で本人確認を行ってください。
執事の価値は「非効率」に宿る。
電話一本の手間が、資産を守る。
まとめ:
「自分は大丈夫」が最大のリスク
最後に、最大の落とし穴についてお伝えします。
それは「自分は仕事ができるから騙されない」という過信です。
経験豊富なスタッフほど、判断が早く、独自のショートカット(確認省略)をしてしまいがちです。
詐欺師は、その「慣れ」と「自負」を狙っています。
「疑う」=「検証」=「守護」。
この方程式を胸に刻み、今日届くメールの一通一通に対し、プロフェッショナルとしての健全な懐疑心を持って向き合ってください。
その「一瞬の確認」が、お客様との長い信頼関係を未来へと繋ぐのです。
