人は「好き・嫌い」で判断する おもてなしの本質
おもてなしを提供する際、私たち執事がまず理解すべきことは、「人は理屈ではなく感情で動く存在である」という前提です。
これは心理学の世界では「感情優位性」と呼ばれ、アントニオ・ダマシオ博士の研究によれば、人間は意思決定の際、論理よりも先に感情が作用するとされています(Descartes’ Error, 1994)。たとえば、ホテルやレストランで素晴らしい料理や内装があったとしても、接客がぞんざいであれば「二度と来たくない」と感じることがあります。
これは、理性的な要素(料理や空間の質)よりも、感情的な要素(接客)で評価が下されているからです。
つまり、人は「好き・嫌い」の感情を入口にし、その感情を裏付ける理由を後から論理的に組み立てているのです。この構造を理解することが、おもてなしの成功に不可欠です。
これは心理学の世界では「感情優位性」と呼ばれ、アントニオ・ダマシオ博士の研究によれば、人間は意思決定の際、論理よりも先に感情が作用するとされています(Descartes’ Error, 1994)。たとえば、ホテルやレストランで素晴らしい料理や内装があったとしても、接客がぞんざいであれば「二度と来たくない」と感じることがあります。
これは、理性的な要素(料理や空間の質)よりも、感情的な要素(接客)で評価が下されているからです。
つまり、人は「好き・嫌い」の感情を入口にし、その感情を裏付ける理由を後から論理的に組み立てているのです。この構造を理解することが、おもてなしの成功に不可欠です。
掛け算で考える「感情」と「論理」
私が20年以上にわたって執事として仕えてきた中で、富裕層のお客様に心から「満足した」と感じていただけるおもてなしには、必ずある“二つの軸”がありました。それが「感情的特別感」と「論理的特別感」です。
感情的特別感とは

お客様の心に直接触れる、表情・言葉・態度・気配り・心遣いの要素です。
たとえば、「笑顔で丁寧に出迎えてくれた」「こちらの些細な要望を先回りして察してくれた」「心地よく過ごせるように常に配慮してくれていた」などが該当します。
これは、心理学で言うところの「情動的知性(Emotional Intelligence)」に深く関係します。ダニエル・ゴールマン氏が提唱したこの概念は、他者の感情を読み取る能力や共感力が、人間関係において極めて大きな影響を及ぼすことを示しています。
たとえば、「笑顔で丁寧に出迎えてくれた」「こちらの些細な要望を先回りして察してくれた」「心地よく過ごせるように常に配慮してくれていた」などが該当します。
これは、心理学で言うところの「情動的知性(Emotional Intelligence)」に深く関係します。ダニエル・ゴールマン氏が提唱したこの概念は、他者の感情を読み取る能力や共感力が、人間関係において極めて大きな影響を及ぼすことを示しています。
論理的特別感とは
一方で論理的特別感は、客観的な価値やスペックに基づく特別感です。
「希少なワインを用意してくれた」「老舗料亭の料理人を招いての特別な夕食会」「お客様の誕生日と同じヴィンテージのシャンパーニュを用意した」など、事実に裏打ちされた非日常性がここに含まれます。
これは、認知心理学の「根拠付き評価(justification-based evaluation)」に通じます。つまり、人は“なぜそれが価値あるものなのか”を納得できる要素を求めるのです。
「希少なワインを用意してくれた」「老舗料亭の料理人を招いての特別な夕食会」「お客様の誕生日と同じヴィンテージのシャンパーニュを用意した」など、事実に裏打ちされた非日常性がここに含まれます。
これは、認知心理学の「根拠付き評価(justification-based evaluation)」に通じます。つまり、人は“なぜそれが価値あるものなのか”を納得できる要素を求めるのです。
どちらかが欠けても満足度は「ゼロ」になる
この2つの特別感は、足し算ではなく「掛け算」で評価されます。
どちらかがゼロ、あるいはマイナスであれば、最終的な印象もゼロ、またはマイナスに転じてしまいます。たとえ論理的に素晴らしいもてなし(最高級の食材、一流の空間)を用意しても、接客が無愛想だったり冷たいものであれば、その体験全体が「よくなかった」と評価されてしまうのです。
私自身、ある高級リゾート邸宅でのおもてなしの場において、料理や空間の演出は完璧であったにもかかわらず、同行したスタッフが機械的な態度を見せてしまい、お客様が「今日はなぜか楽しめなかった」と漏らされたことがありました。まさに感情的特別感が欠けた例です。
逆に、少々古びた家具や簡素な料理であっても、「あなたのためにこの場所を整えました」「この季節に合うように香りを変えました」などの心からの演出があれば、特別な体験として記憶に残ります。
どちらかがゼロ、あるいはマイナスであれば、最終的な印象もゼロ、またはマイナスに転じてしまいます。たとえ論理的に素晴らしいもてなし(最高級の食材、一流の空間)を用意しても、接客が無愛想だったり冷たいものであれば、その体験全体が「よくなかった」と評価されてしまうのです。
私自身、ある高級リゾート邸宅でのおもてなしの場において、料理や空間の演出は完璧であったにもかかわらず、同行したスタッフが機械的な態度を見せてしまい、お客様が「今日はなぜか楽しめなかった」と漏らされたことがありました。まさに感情的特別感が欠けた例です。
逆に、少々古びた家具や簡素な料理であっても、「あなたのためにこの場所を整えました」「この季節に合うように香りを変えました」などの心からの演出があれば、特別な体験として記憶に残ります。
執事が実践する「両立」への工夫
執事の役割は、この2つの軸を両立させる「演出家」です。単なる接客係でもなく、調度品を揃える係でもありません。お客様の「気分」「関心」「感性」に寄り添いながら、その方だけの物語を演出するのが執事の仕事です。
たとえば、お子様のお誕生日を迎える富裕層のお宅では、単にパーティーを企画するのではなく、お子様が今好きなキャラクターを事前にリサーチし、あらゆる演出に反映させるよう努めます。さらに、「この演出はフランスの教育心理学者ジャン・ピアジェの理論に基づいた発達段階に合った刺激になります」と説明すれば、それは論理的特別感にもつながります。
たとえば、お子様のお誕生日を迎える富裕層のお宅では、単にパーティーを企画するのではなく、お子様が今好きなキャラクターを事前にリサーチし、あらゆる演出に反映させるよう努めます。さらに、「この演出はフランスの教育心理学者ジャン・ピアジェの理論に基づいた発達段階に合った刺激になります」と説明すれば、それは論理的特別感にもつながります。
心に残るおもてなしの本質とは
人が心に残す体験というのは、感情に強く訴えかけるものです。そして、その感情を支えるように「理由」や「価値」がセットになっていることで、「また体験したい」と思えるものになります。
この構造は、社会心理学者ロバート・チャルディーニが提唱する「説得の6原則」のうち、「好意(liking)」と「権威(authority)」にも関連しています。つまり、「この人が好きだ」「この人が信頼できる」という感情と、「この人は確かな知識や経験を持っている」という事実の組み合わせが、相手の心を動かすのです。
この構造は、社会心理学者ロバート・チャルディーニが提唱する「説得の6原則」のうち、「好意(liking)」と「権威(authority)」にも関連しています。つまり、「この人が好きだ」「この人が信頼できる」という感情と、「この人は確かな知識や経験を持っている」という事実の組み合わせが、相手の心を動かすのです。
まとめ:感情と論理を掛け合わせることが、おもてなしの極意
「感情的特別感 × 論理的特別感の法則」は、私が20年近く執事としての現場で蓄積してきた経験の中から導き出した、おもてなしの本質を表す原則です。
どちらか一方では不十分であり、両方を掛け合わせることによって、はじめて富裕層のお客様に「満足」と「記憶に残る体験」を提供することができます。
これは飲食業、ホテル業、販売業、どのホスピタリティにも通じる原則です。そしてこの原則は、再現性を高めるという意味でも、執事の新人教育や企業研修において非常に効果的です。
今後、「至高のおもてなし」を提供したいとお考えの方は、まずこの第1法則をしっかりと身につけていただければと思います。
どちらか一方では不十分であり、両方を掛け合わせることによって、はじめて富裕層のお客様に「満足」と「記憶に残る体験」を提供することができます。
これは飲食業、ホテル業、販売業、どのホスピタリティにも通じる原則です。そしてこの原則は、再現性を高めるという意味でも、執事の新人教育や企業研修において非常に効果的です。
今後、「至高のおもてなし」を提供したいとお考えの方は、まずこの第1法則をしっかりと身につけていただければと思います。
参考文献
•「執事が教える至高のおもてなし」新井直之著・きずな出版刊 https://www.kizuna-pub.jp/book/1463/
• Damasio, A. (1994). Descartes’ Error: Emotion, Reason, and the Human Brain. Putnam Publishing.
• Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence. Bantam Books.
• Cialdini, R. (2001). Influence: Science and Practice. Allyn & Bacon.
• American Psychological Association. The Science of First Impressions. https://www.apa.org/topics/personality/first-impressions
• Harvard Business Review. Justifying Decisions: The Psychology of Rationalization. https://hbr.org/
• 世界経済フォーラム, CC BY-SA 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0, via Wikimedia Commons
• Damasio, A. (1994). Descartes’ Error: Emotion, Reason, and the Human Brain. Putnam Publishing.
• Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence. Bantam Books.
• Cialdini, R. (2001). Influence: Science and Practice. Allyn & Bacon.
• American Psychological Association. The Science of First Impressions. https://www.apa.org/topics/personality/first-impressions
• Harvard Business Review. Justifying Decisions: The Psychology of Rationalization. https://hbr.org/
• 世界経済フォーラム, CC BY-SA 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0, via Wikimedia Commons
