お客様の期待値をコントロールする執事のホスピタリティ技術

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富裕層のお客様に最高のホスピタリティを提供する執事の仕事では、事前にトラブルやリスクを回避することが求められます。その中でも特に重要なテクニックが、「お客様にとって都合の悪いことを、あえて事前にお伝えする」という手法です。

今回は、執事が実践している「悪いことを先に伝える」ことで、逆にお客様の満足度を高める具体的な方法をご紹介します。


「悪いことを先に言う」がなぜおもてなしになるのか?

接客やサービス業の現場では、予期しないトラブルや不都合な事態が発生することがあります。執事も例外ではありません。たとえば、予約していた料理の材料が入手困難になったり、経験が浅いスタッフが担当になったりなど、避けられない事態は常に起こりうるものです。

こうした状況を「お客様にどう伝えるか」が執事の腕の見せどころです。執事は必ず、悪い状況が起きる可能性を事前に丁寧にお伝えします。

これには心理学的な背景があります。心理学者のオリバー(Oliver, 1980)による「期待値理論(Expectation-Confirmation Theory)」によれば、お客様の満足度は「期待値」と「実際の経験」との差で決まります。つまり、お客様の期待値をあらかじめ適切に調整(コントロール)することで、結果的に満足度を高めることができるのです。


執事が実践する「期待値コントロール」の具体例

日本バトラー&コンシェルジュの運営する執事サービスに所属するスタッフはベテランもいれば新人もいます。富裕層のお客様は当然、常にハイレベルなサービスを期待していますが、新人執事が担当する際は、事前に丁寧に次のようにお伝えしています。

「本日担当いたします執事は、まだ経験が浅くご迷惑をおかけする場面もあるかもしれません。何かお気づきの点がございましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ。」

すると、ほとんどのお客様は事後にこう評価されます。
  • 「経験が浅いと聞いていたけど、むしろ一生懸命に対応してくれて好感が持てたよ。」
  • 「事前に知らせてもらえたので、少々のミスは全く気にならなかった。」

これが、執事が実践する「期待値コントロール」の効果なのです。


執事から学ぶ、一般的な接客業でも活用可能なトラブル対応術

これは執事業だけでなく、すべての接客業に応用可能な考え方です。例えば、次のようなケースが考えられます。

レストランでのケース:空調トラブルへの対応例

夏の暑い日にエアコンの調子が悪く、店内の一部の席が十分に冷えない場合。あえてお客様が席に着く前に伝えます。

「申し訳ございません。このお席は空調がやや効きにくく、暑く感じられるかもしれません。その場合はすぐに対応いたしますので、お気軽にお申し付けください。」

このような一言を添えるだけで、お客様の反応は大きく変わります。お客様は「スタッフが自分のことをきちんと気遣ってくれている」とプラスに受け止め、好印象を持ってくださるのです。

ホテル業界でのケース:チェックイン遅延の可能性がある場合

予約が集中し、客室の準備に時間がかかる可能性がある場合も、事前にこう伝えます。

「本日は大変混雑しており、お部屋の準備が通常より少し遅れるかもしれません。お待ちいただく間、ロビーラウンジにてドリンクをご提供させていただきますので、どうぞごゆっくりおくつろぎください。」

このように伝えることで、待つことがむしろ心地よい時間に変わり、満足度が高まります。


「クレーム」は「期待値コントロール」で「感謝」に変わる

クレームは、ただ単にサービスが悪いから生じるものではありません。お客様がクレームを出す根本的な理由は「自分が大切にされていない」と感じるためです。

事前に悪いことを伝える行動は、お客様の不安や不快を先回りして気遣う姿勢を示します。これは、最終的に感謝につながることも少なくありません。

執事サービスでは、お客様との信頼関係が何よりも重要です。お客様に都合の悪いことを隠さず先に伝えることが、信頼関係を深める重要な鍵となるのです。


執事のホスピタリティを学べる研修・講演のご案内

私たちは、こうした執事が実践する高度な接客スキルやホスピタリティを、企業様向けの研修や講演としても提供しております。特に富裕層顧客対応においては、このような「期待値コントロール」のテクニックを身につけることで、大幅なサービス向上とクレームの削減を実現しています。


執事のおもてなしスキルを取り入れることで、企業全体の接客品質を高めることができます。ぜひ貴社の接客研修やホスピタリティ向上のためにご活用ください。


【参考文献】

• 新井直之(2016)『執事が教える 至高のおもてなし』きずな出版
• Oliver, R. L. (1980). A cognitive model of the antecedents and consequences of satisfaction decisions. Journal of Marketing Research.

記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

各ビジネス関連メディアにてインタビュー・寄稿記事を連載中。
日経ビジネス電子版
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本物執事の新井直之
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