ホーム » 執事のコラム » 世界トップクラスのホスピタリティ力が身に付く執事の習慣執事の心を育てる感謝の言葉とは?

世界トップクラスのホスピタリティ力が身に付く
執事の習慣
執事の心を育てる感謝の言葉とは?


「友好派」でなくても、おもてなし上手になれる

「自分は人付き合いが得意ではない」「性格的にサービス業に向いていない」と感じている方も少なくないでしょう。しかし、結論から申し上げますと、「おもてなしの心」や「ホスピタリティ精神」は、生まれ持った資質ではなく、後天的に育てていけるものなのです。

これは、当社が提供している執事研修やホスピタリティ講演の中でも、最も多くの方が驚かれるポイントのひとつです。おもてなしとは天性の才能ではなく、「習慣」と「意識」によって後天的に身につけられる、れっきとしたスキルです。


「現実派」だった私が変われた理由

私自身、もともとは「友好派」ではありませんでした。ソーシャルスタイル理論でいうところの「現実派」にあたり、合理性や結果重視の思考が強く、相手の感情よりも効率や成果を優先する傾向がありました。富裕層のお客様と接するにあたって、初期の私は、相手の繊細な感情に寄り添うことができず、空回りしてしまうことも少なくありませんでした。

しかし、そんな私が「資産50億円以上の富裕層のお客様にのみ仕える執事」として認められるようになったのは、「一日一善」という習慣を通して、少しずつ心の在り方が変化していったからです。

これは、単なる行動の積み重ねではなく、自分自身の内面を根本から変えるトレーニングでもありました。


一日一善でマルチソーシャルタイプへ進化

「友好派ではないからおもてなしは向いていない」と思い込んでいる方ほど、「一日一善」の習慣によって“マルチソーシャルタイプ”へと成長できる可能性があります。

ここでいう「マルチソーシャルタイプ」とは、他人のタイプに合わせて自分のコミュニケーションスタイルを柔軟に変化させられる、対人対応力の高い人物のことを指します。

これは、執事にとってまさに理想的なスキルです。
日々、富裕層のお客様のタイプに合わせて柔軟に自分を変化させることができれば、「この人は自分のことを理解してくれている」とお客様に感じていただくことができ、深い信頼関係を築くことができます。

この「自己変容力」は、米国心理学会(APA)が定義する「感情知能(Emotional Intelligence)」の中核的要素のひとつとされています。特に、「自己認識」「自己調整」「共感」といった要素は、ホスピタリティ業界における対人スキルの中心でもあります。

一日一善のような小さな善行を意識的に続けることで、自己の内省力が高まり、他者の感情にも敏感になります。脳科学の研究でも、感謝されたり、他者に親切にする行為を習慣化することで、脳内で「オキシトシン」や「ドーパミン」などの幸福ホルモンが分泌され、自己肯定感や共感性が高まることが明らかにされています(参照:Fredrickson, 2004)。


執事として、人としての“器”が広がる

マルチソーシャルタイプになるということは、つまり「他人を受け入れる器」が広がるということです。おもてなしの場では、あらゆるタイプのお客様に出会います。社交的でフランクな方もいれば、理屈っぽくて感情を表に出さない方もいます。

友好派的な態度を身につけることは、そのすべてに対応できる柔軟性を得ることにつながります。これは単なる“おもてなしのスキル”にとどまらず、人間としての在り方そのものが成長する過程でもあります。

執事としてだけでなく、一人の社会人として、さらには家庭や地域社会でも愛される人物になっていくためには、この“器”の大きさが欠かせません。

そしてその器を広げる最も確かな方法が、一日一善を通じて、他者の喜びを自分の喜びとして受け取る習慣をつけることなのです。


習慣が人格をつくる

心理学者ウィリアム・ジェームズが説いたように、「人間は習慣の生き物である」という言葉があります。行動を繰り返すことで、それはやがて人格となり、人生の質そのものを変えていきます。

また、アメリカの心理学者チャールズ・デュヒッグの著書『習慣の力』では、人間の行動の約40%が習慣によって支配されているとされており、日々の善行の積み重ねがいかに人格形成に直結するかを示唆しています。

さらに、行動心理学の「強化理論」においても、人は報酬によって行動を繰り返すようになるとされています。ここでの報酬とは、感謝の言葉、相手の笑顔、信頼の獲得など、「内的報酬(intrinsic reward)」です。

つまり、「ありがとう」と感謝されることが快感となり、一日一善が強化され、習慣化されることで、“おもてなし上手な人格”が形成されていくのです.


おもてなし上手な執事は、育てることができる

当社では、執事・コンシェルジュ・ハウスメイド、そして企業のホスピタリティ人財に向けた研修や講演を通じて、「おもてなし上手になる習慣化」を体系的に指導しています。マルチソーシャルタイプへの成長を目指し、「一日一善」「観察力の強化」「褒める・感謝する練習」など、実践的なワークを重ねる中で、受講者の多くが“おもてなし体質”へと生まれ変わっていきます。

習慣は、誰にでも身につけられる武器です。そして、それは確実に人の心を変え、行動を変え、やがて人生を変えます。その変化の鍵となったのが、「一日一善」という小さな習慣でした。


「ありがとう」が生む人財と感謝の循環

行動が心をつくる。おもてなしは「意識」と「経験」で育つ

心理学者ウィリアム・ジェームズの言葉に、「行動は感情に先行する」というものがあります。つまり、人はまず行動し、その結果として気持ちや思考が変化するという考え方です。
この理論を裏付けるかのように、私たち執事が研修や講演で伝えているのが「一日一善」の実践です。毎日ひとつ、誰かから「ありがとう」と言われる行動をする。たったこれだけのことで、人は少しずつ変わっていくのです。


執事の現場での事例:些細な気遣いが「ありがとう」を生む

あるとき、お客様の靴のかかとが少しだけ傷んでいるのに気づいた執事がいました。その執事は、次回のご訪問の際にさりげなく靴修理の専門店をご案内し、ご希望があればお預かりして修理代行もできますとお伝えしました。

この心配りに、お客様は「こんな細かいことにまで気づいてくれるなんて」と感動され、後日、「あの時の提案、本当に助かったよ。ありがとう」と言葉をくださいました。

執事にとって、この「ありがとう」こそが最大の報酬です。物質的な褒賞ではなく、「あなたは私にとって価値ある存在です」と認められたことが、自信とやる気につながるのです。


感謝が快感に変わる脳のメカニズム

ドーパミンと「ありがとう」の関係

「ありがとう」と言われたとき、脳内では報酬系と呼ばれる領域が活性化し、ドーパミンという快感物質が分泌されることが知られています(参考:Murayama & Kitagami, 2014)。
この現象は「ヘルパーズハイ」と呼ばれ、人に親切にしたときに得られる心理的報酬のことです。

つまり、「ありがとう」と感謝されるたびに、脳は「これは気持ちの良いことだ」と学習します。その結果、自然と「また人の役に立ちたい」という行動へとつながっていくのです。


マズローの欲求五段階説における「承認」と「自己実現」

おもてなしの現場において重要なのは、マズローの欲求五段階説でいう「承認欲求」「自己実現欲求」を満たすことです。人は、他者から認められ、必要とされることで自己価値を感じます。

執事が富裕層のお客様に信頼されるためには、まさにこの高次の欲求に応える必要があるのです。その第一歩が、「ありがとう」と言われることを喜びと感じられる心の土台づくりです。
ソーシャルスタイルについてはこちら


「褒める・観察する」ことで見えてくるもの

相手の「良い点」を見つける訓練

一日一善が難しいと感じる方におすすめしているのが、「褒める」ことから始めるアプローチです。褒めるためには、相手をよく観察しなければなりません。相手の表情、声のトーン、仕草、態度から「その人らしい魅力」を読み取る。この観察力こそが、執事にとって欠かせないホスピタリティの基盤です。

実際、当社の執事研修でも「相手を観察し、良い点を見つけてフィードバックする」というワークを毎日行います。これにより、相手を理解する力が自然と身につき、信頼関係を築く力も高まっていきます。


教育現場の実践例:ほめ言葉のシャワー

「褒めることが習慣を変える」ことを証明した好例が、教育界で話題になった「ほめ言葉のシャワー」です。小学校教師・菊池省三氏の提唱により、朝礼でクラス全員が1人の生徒を褒めるというこの取り組みは、学級崩壊を改善するほどの効果を上げました。

この手法のポイントは、「具体的に褒めること」。単なるお世辞ではなく、「昨日、忘れ物を届けてくれてありがとう」などの具体的なフィードバックが、信頼と感謝の連鎖を生みます。


ホスピタリティは「習慣」で身につく

おもてなしの心とは、決して特別な才能ではありません。それは、日々の行動と意識の積み重ねで育つ「習慣」です。
執事として働く私たちが、毎日小さな善行を積み重ね、感謝の言葉に心から喜びを感じられるようになったのは、特別な資質があったからではありません。繰り返し、丁寧に「人を喜ばせる」行動を習慣化した結果、自然とその心が育まれたのです。


まとめ おもてなしの達人になる第一歩

おもてなし上手になるために、特別な性格や才能は必要ありません。必要なのは、「一日一善」の習慣と、相手の良いところを見つける観察力、そしてそれを伝える勇気です。

執事として富裕層のお客様にお仕えするなかで培ったこの経験と理論は、どのような業種でも応用できます。ホテルやレストランで接客を担当する方、VIP対応を行う営業職、マネジメント層の方―すべてのビジネスパーソンにとって、おもてなし力は注目されるべき重要スキルなのです。

記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

本物執事の新井直之

関連リンク

https://butler-concierge.com/butler_column_24
上部へスクロール