執事が語る「ホスピタリティ」と「サービス」の違いその先にある“おもてなし”

ホーム » 執事のコラム » 執事が語る「ホスピタリティ」と「サービス」の違い──その先にある“おもてなし”

執事が語る「ホスピタリティ」と「サービス」の違い
その先にある“おもてなし”

私たち日本バトラー&コンシェルジュでは、富裕層のお客様に対し、日々「執事」としての職務を果たしております。そのなかで頻繁に問われるのが、「ホスピタリティとサービスの違いは何か?」という本質的な問いです。そして、これに加えて忘れてはならないのが、日本独自の概念である「おもてなし」という言葉の存在です。

本稿では、これら三つの言葉の違いを明確にしながら、執事の現場で実践されている事例を交えて、真の“おもてなし”とは何かを紐解いてまいります。AIやマニュアルに置き換えられない、人の心にしかできない対応力の核心に迫ります。

サービス=機能
ホスピタリティ=心
おもてなし=文化的美意識

ホスピタリティという言葉は、日本語では「おもてなし」と訳されることが多いものの、実はその意味合いは文化や文脈によって大きく異なります。一般的には「心のこもった接遇」「思いやりをもった対応」とされますが、私たち執事や日本バトラー&コンシェルジュが実務で感じるホスピタリティの本質は、「相手の言葉にならない期待を察し、それを上回るかたちで叶える知性と感性の融合」です。

心理学的には、ホスピタリティは人間の基本的な欲求である「社会的欲求(マズローの第三段階)」を満たす行為といえます。社会的つながりや承認を求める心に、ホスピタリティは強く作用します。つまり、単なるサービスではなく、相手の心に届く行為こそが、真のホスピタリティなのです。

コンシェルジュ,サポート,人材採用,教育

執事の現場から見る、三者の明確な“境界線”

執事という職業は、まさにこれら三者の違いを日々体感する立場にあります。

あるとき、海外から来日された富裕層のご夫妻をお迎えした際、事前にヒアリングしたのは「紅茶が好き」という情報だけでした。一般的な“サービス”であれば、高級な紅茶を準備すれば事足ります。しかし、私たちはその方の過去のご来日履歴や気候、渡航疲れまで考慮し、「カフェインを控えた温かいハーブティー」と「伝統的な和菓子の盛り合わせ」をお部屋に準備しました。

お客様は非常に驚かれ、「ここまで自分たちのことを考えてくれた接客は初めてだ」とおっしゃいました。これが“ホスピタリティ”の力であり、マニュアルでは提供し得ない応対の典型です。

さらに、ご夫妻が帰国する日には、気温の変化を考慮し、お帰りの車内にブランケットとハンドウォーマーを用意しました。言葉には出さずとも、見送られる瞬間に感動の表情が見えたとき、私たちは“おもてなし”が成立したことを実感するのです。

 マニュアルでできるのは“サービス”まで
ホスピタリティは“生き方”でしか学べない

サービスは“誰が行っても同じ結果になる”ことを前提としたマニュアル化が可能ですが、ホスピタリティはそうはいきません。なぜなら、そこには「感性」と「状況判断力」、そして「人格」が関与するからです。

私たち執事は、新人研修の段階から“気づく習慣”を身につける訓練を受けます。廊下にある一輪の花が昨日と違って見えるか。お客様の声色に変化があるか。無数の“違和感の芽”を見逃さず行動に変える──それがホスピタリティの実践です。

この力は、知識や技術だけでは育ちません。日々の観察と内省、そして自分自身の感性を磨く努力によって培われていきます。まさに、“ホスピタリティは生き方である”という所以です

ホスピタリティを超えて、おもてなしが“美”になるとき


日本文化における「おもてなし」は、ホスピタリティの一形態でありながら、より“美意識”や“精神性”を伴うものとして昇華されています。

たとえば、京都の老舗料亭では、客人の食事中に女将が話しかけることはありません。それは「沈黙」こそが相手の集中を妨げない最上の礼儀であると知っているからです。このような無言の心遣いは、海外ではあまり見られない“日本ならでは”の表現方法です。

「間」や「余白」に意味を持たせる日本の美学。おもてなしには、言葉よりも“省く勇気”が求められるのです。執事としてその違いを体得するには、表現しないことの奥深さを理解する必要があります。

執事が実践する“ホスピタリティとおもてなしの融合”

 私たちは、ホスピタリティとおもてなしの“融合”を理想としています。

たとえば、ある海外の著名な実業家が初来日された際、文化や慣習の違いから不安を抱えておられました。そこで私たちは、初日には“グローバルなホスピタリティ”を意識し、明るくフレンドリーに対応。一方、2日目からは“静けさと気配り”を主軸とする日本式おもてなしを徐々に取り入れました。

結果、その方は「日本が人生で最も落ち着ける国になった」とおっしゃり、以後毎年お越しいただいております。サービス → ホスピタリティ → おもてなし という三層構造を意識した応対が、心の深層に届くのです。

まとめ
これからの時代に求められる「ホスピタリティ的な生き方」


現代のビジネス社会では、効率性やコスト削減が重視されがちですが、その一方で“人間らしさ”への渇望も強まっています。

ホスピタリティは、対人関係すべてに応用できる「相手本位の思考習慣」です。取引先との関係、家族との対話、同僚との接し方──すべてに「この人は、私のためにここまで考えてくれている」という感覚をもたらすことができます。

おもてなしとは、“気づき”と“品格”の積み重ねです。AIでは真似できない「心の繊細さ」こそが、これからの時代に求められる最大の価値ではないでしょうか。

 FAQ
ホスピタリティ・サービス・おもてなしについて
よくある質問

参考文献


        •新井直之(2017)『執事が教える至高のおもてなし』きずな出版
        •日本バトラー&コンシェルジュ 社内研修資料

記事執筆者・監修者

新井 直之
(NAOYUKI ARAI)

執事
日本バトラー&コンシェルジュ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本執事協会 代表理事
一般社団法人 日本執事協会 附属 日本執事学校 校長

大富豪、超富裕向け執事・コンシェルジュ・ハウスメイドサービスを提供する日本バトラー&コンシェルジュ株式会社を2008年に創業し、現在に至る。

執事としての長年の経験と知見を元に、富裕層ビジネス、おもてなし、ホスピタリティに関する研修・講演・コンサルティングを企業向けに提供している。

代表著作『執事が教える至高のおもてなし』『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』。日本国内、海外での翻訳版を含めて約20冊の著作、刊行累計50万部を超える。

本物執事の新井直之
上部へスクロール